論文の構造と章(chapter)の構成

 卒業論文、修士論文の構造は以下の通りで、その中身は以下の章 (chapter)によって構成される。(一般的な科学論文の構造も同様である)

    •  表紙 (研究テーマ名、著者名、所属)
    •  目次
    • 第1章 緒論または背景(Introduction)
    • 第2章 実験方法(解析方法)(Experimental Procedure)
    • 第3章 結果および考察 #1(Results and Discussion)
    • 第4章 果および考察 #2(Results and Discussion)
    •   必要な場合。以下、章を増やして構成する。
    • 第5章 まとめ、結言 または総括(Summary または Conclusions)
    •  参考文献
    •  謝辞

1 緒論または背景(Introduction)

 この章では社会的背景(一般)から説明し、自分の研究分野との関わり、注目した課題における先行研究と問題点を整理し、研究の動機(個別)を明確に述べて、研究の目的までを論理の飛躍なく「起承転結」意識して書く。

 (投稿論文の場合は、Introductionの文章量は論文全体のバランスも考慮しながら必要な内容を書くが、)卒論、修論は、その研究テーマを取り組むにあたりどれだけ勉強して社会的な背景や先行研究を整理したのか「テーマ・研究目的に関する研究分野の集録」としての意味合いも強くある。従って、この章では研究を着手するにあたって勉強した内容を広く、深く記述して欲しい(近年、ここが短い卒論が散見されるが、評価する立場としては卒論の質を示す重要な部分である)。

 緒論では、関連する研究の紹介と問題提起や当該研究を始める動機(Motivaition)づけをし、その問題を解決するために何をこの論文で行うかを明確に述べる。よく見られる論理構造は次の弁証法()に従ったものである。

  • :「....は重要な問題であって、多くの研究がなされて来た。(以下関係する研究の紹介。)」
  • :「しかし、...については従来研究がなされてこなかった。(以下関係する議論。)」
  • :「そこで本研究の目的は....である。そのために....を行う。」
 ここででは比較的広い範囲をカバーし、ではより狭い特定の問題に焦点を当てることに注意する。つまり説明する内容は「一般から個別へ」であり、これは後で述べるように「考察(Discussion)」で議論される内容が「個別から一般」であることと対照的になっている。
 なお上の3つの論点をどう段落構成に反映するかは、使えるスペースに大きく依存する。卒論、修論などの字数や枚数に厳しい制限がなく、スペースが十分ある場合は、1論点を1段落以上を当てる。

2  実験方法(Experimental Procedure)

 「緒論」で設定した問題を解決するために用いた方法を、他の研究者が追試可能なように述べる。 材料合成に関する論文では、原料の純度、形状だけでなく製造者(メーカー)まで記載するのが基本である。

3  結果および考察(Results and Discussion)

 学術誌によっては「結果」と「考察(議論)」を分けて章立てする場合があるが、しばしばこれらを1つの章にまとめて「結果および考察」とする。修論や博士論文のようにこの章を複数立てる場合は、章のタイトルはそれぞれの中身を説明する(小テーマ)記述をする事が多い。複数のこの章を立てる場合は、それぞれの章で考察ができ、何が新たに分かったのか(新規性)が個別に議論できる場合に限るべきである。ただ単に材料の組成が違うとか、実験手法に分けるとか(出現相の章、特性評価の章などにわけるなど)むやみに章に分ける事は避けるべきである。
 「結果」に相当する部分は論文の最も主要な部分であり、得られた事実(実験結果)と、それがどう「緒論」で提起した問題について「何が新たに明らかになったのか」を説明する。つまり「結果」における記述は、単に実験結果や計算結果を羅列するのではなく、読者の大多数が納得できる解釈や推論や意味付けという、論理の展開を含む。実験などで得られた図や表を出し、図の意味を理解するのに必要な記述や解釈を「考察」と勘違いしている学生が多いが、これは論理の展開である。
 「結果」で説明する主な内容は、新たに得られた事項でなくてはならないので、過去の研究に触れることがあってもすぐに本筋に戻った方がよい。投稿論文などでは過去の研究は1文で述べるのにとどめ、まれに,過去の研究との関係を1パラグラフを費やして深く議論する場合があるが、これは1論文中1回だけにする方が良い。卒論、修論などの場合は、緒論で書いておけるものは予め説明しておき、この章ではなるべく簡単に述べるに留める。また、教科書などに説明されている一般的な事項は同様に1文で述べるに留めた方がよく、あまり長く書くと読み手より書き手のレベルの低さが窺い知られ格好悪いので注意する。
 「考察」では結果で得られた個別の問題についての情報が、より一般的な科学の世界でどういう価値を持つのかを説明する。また工学系の論文などにおいては、今回得られた結果の持つ波及効果や社会にどう役立つのかについて説明することもしばしばある。つまり説明する内容は”個別から一般へ”であって、上で述べた「はじめに」での”一般から個別へ”と逆である。
 考察で述べられる論点は多岐に渡るが、主に次の3つで、このうちのいくつかを記述すればよい。

  1. 研究結果の位置づけ
  2. 他の研究との比較,または他の研究結果の再解釈
  3. 当該研究であり得る問題点と将来の課題

4  まとめ、結言 または総括(Summary または Conclusions)

 これまで述べてきた「結果および考察」を踏まえて論文の「結論」を述べる章である。特に注意したいのは、「緒論」で述べたこの研究の目的に対応した記述でなくてはならず、「研究の目的」と「結論」は言うなれば「主語」と「述語」であり、目的とちぐはぐな内容とならないよう注意する。
 この章は投稿論文や卒論などでは「まとめ」や「結言」などが用いられ、修論など複数の「結果および考察」章が持つ複数の小括がある場合は、最後の章として「総括」を置く。

5  参考文献

 論文では、自分が行ったことと一般的な知識以外は全て引用文献を示さなくてはならない。
 論文が著者個人の発想のみで着手されることは、まず無い。「緒論」での”一般から個別へ”の段階を踏むに当たって、多くの先行研究などを引用しながら、個々の研究の主題へと辿り着くものであり、そこには数多くの引用される文献があるはずである。是非、多くの必要な文献を引用して、ここに記述してもらいたい。
 基本的に引用されるのは、学術論文(投稿論文)が一般的であるが、卒論や修論の場合は教科書などを参考にする場合もある。その場合も、参考となる記述が学術論文などによるものである場合は、なるべくオリジナルの文献を引用する。

 詳しくは→[参考文献について]

 卒論、修論では特に緒論の章で、当該論文の研究領域について集録(レビュー)する重要な作業であり、評価対象である。本研究室の研究では、卒論での目安は20〜30件、修論では30〜100件程度の参考論文を記述する(つまり、それ以上の先行研究について目を通している)べきであろう。

このページの参考資料(参考文献)

 このページの一部は、北海道大学 見延庄士郎 先生の「論文・レポートの書き方」を参考にしました。

[表現 (文や言葉の使い方)]につづく