革新的磁石材料の為の超高圧合成法による新規磁性化合物の探索

 現用のネオジム磁石を凌駕する高飽和磁化と高保磁力を持つ革新的な永久磁石材料の創製に挑戦します。EVやHEVなど環境対応車の駆動用モータに使用されるなど、永久磁石は今後の環境共生社会に不可欠なグリーンマテリアルです。本研究は鉄が10数万気圧の超高圧によりレアアース金属と同じ結晶構造に変化することに注目し、資源的な制約の少ない鉄をベースにレアアース使用量を大幅に削減した新しい磁石合金の開発を行います。
 本研究は、さきがけ研究「新物質科学と元素戦略(細野秀雄 領域統括)」領域に参画して行われました。

研究概要

研究の背景
 次世代自動車として、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)などがあり、これらの駆動用モータ磁石として、1982年に開発され現在も最強磁石となっているNd-Fe-B系磁石(ネオジム磁石)が利用されています。この磁石は多量のNdのほか、資源量の少ないDyなどレアアースを使用されていることから、よりレアアース使用量の少ない磁石材料の開発が強く望まれています。

さきがけ概要

 一方、資源的制約の少ないFeなど遷移金属元素(TM)は磁石性能の重要なパラメータである高磁化を有することから、遷移金属ベースで高保磁力を実現できる新規磁石材料が求められています。一方、高い保磁力を得るためには、磁性化合物に高い結晶磁気異方性を発現させることが重要となります。この為には結晶の対称性を異方性化させるだけでなく、遷移金属の3d電子状態を異方性化させる必要があり、これと相関する4f電子をもつレアアース元素(RE)は必要不可欠であると言えます。
 より高性能な磁石材料の開発の為、計算科学など理論的な予測に基づき様々な合成技術により活発な材料探索が行われてきました。しかしながら、材料科学における従来の冶金学的な手法では、原子半径の違いによる元素置換の限界や元素の融点の違い、親和性の違いなどにより、理論的または経験的に予測された材料設計であっても実際には合成されるに至っていないものも多くあるようです。

研究の目的
 本研究は、超高圧法を冶金学的な合成手法として導入し、次世代の革新的磁石材料の為の高い飽和磁化と結晶磁気異方性を有する新規磁性化合物の探索を目的として行います。
 現用最強磁石のNd-Fe-B系磁石の性能を凌駕する革新的な機能を持った磁石材料を得る為には、Feなど磁性金属元素が有する高い磁化をできる限り維持し、高保磁力を発現させることが重要です。また、Feは10GPa以上の超高圧下において希土類元素と同様のHCP構造を有し、従来の報告にはない固相反応が可能であり、新規化合物の創出が期待されます。