なぜ水素吸蔵合金? 〜水素吸蔵合金のメリットについて〜

 水素エネルギーの貯蔵方法として、水素吸蔵合金をつかうメリットには技術的な面のほか社会学的な面があります。ここでは、これらのメリットを簡単にお話します。

水素吸蔵合金の技術的なメリット

  大きく分けて主に2つあります。
  コンパクトに貯蔵可能
  高圧力を必要としない(低圧水素で貯蔵可能)
このほかにも、容器破裂時の安全性などがありますが、ここではこの2つについてお話します。
■ 高圧力を必要としない(低圧水素で貯蔵可能)
 水素吸蔵合金は合金設計(材料設計)で水素と反応する圧力や温度を調整することができます。この性質を利用して、私たちは合理的に低い圧力(高くない圧力)として1〜10気圧程度に設計した水素吸蔵合金に大きなメリットがあると考えています。、産業用分野で普及している輸送方法の高圧ガス容器(ガスボンベ)は約150気圧または約200気圧(14.7MPaまたは19.6MPa)のものが用いられています。水素燃料電池自動車の燃料タンクでは、容器の水素充填圧力は700気圧(70MPa)に及びます。また液化水素は–253℃に冷却、保持する必要があります。
■ コンパクトに貯蔵可能
 水素ガスを高圧力に圧縮するよりも、同じ体積の水素ガスを水素吸蔵合金中には更にコンパクトに貯蔵することが可能です(表1)。気体は圧力によって体積が小さくなりますが、高圧力になるほどその圧力ほどの圧縮率は得られません(水素ガス1000気圧では600分の1にもならない)。一方、水素吸蔵合金は高い圧力を必要とせず、圧縮水素以上にコンパクトに水素を貯蔵することができます。
 吸蔵圧は放出圧より高くなりますが、高圧ガス保安法に触れない10気圧未満(低圧水素ガス)であれば、様々なメリットがあります。

表1 水素の体積貯蔵密度
貯蔵方式1000NL水素の貯蔵体積 (L)
圧縮ガス0.1 MPa1000
10 MPa(100気圧)10.5
15 MPa(150気圧)7.3
35MPa(350気圧)3.5
70 MPa(700気圧)2
100MPa(1,000気圧)1.7
液化水素 (–253℃)1.3
水素吸蔵合金0.6-1.0

水素吸蔵合金タンクの経済的波及効果と社会実装への親和性
〜 水素吸蔵合金が可能にする低圧水素の高い社会適応性 〜

 水素エネルギーの普及拡大には水素の低コスト化が最重要課題の一つです。水素ガスの製造コストだけではなく、利用先(水素需要家)の手元に届く水素の末端価格を下げることが強く望まれています。この配送コストにおける人件費の占める割合がとても大きく、いかに配送効率を上げるかが課題です。電気は送電線、LPガスはガスタンクのように、エネルギーはこれまでほぼ単一の方法で輸送されてきました。しかし水素の配送は、これまでの手段とことなり、配送ルート(図1)によって社会経済にもっとも合理的な手段を選ぶ必要があると考えています。水素吸蔵合金は、住宅街(街区)などの末端配送を安全安心な付加価値をつけて輸送手段として注目されています。
 さらに、高圧ガス保安法に抵触しない配送方法であるということは、配送従事者に高圧ガス免許の資格が必要ないということになります(ガソリンなどと同様に危険物取扱免許は必要)。従って、既存のエネルギー配送従事者の雇用を守ることが期待され、社会的な親和性も高い水素の貯蔵、輸送方法です。


図1 水素サプライチェーンの将来像