フルサイズ走行設備は最終的に目指すフルスケール設備と同一の軌間1.435m(標準軌)を有し、本格的な走行台車の設計指針やロケット推進装置の実証が可能です。台車の加速は取扱いの安全性が高いハイブリッドロケットで行ない、1日に2回の走行実験が可能です。また、高速度・高加速度環境を利用した民間企業との共同研究をこれまでに3度実施しており、最高速度405km/hを達成しています。
フルサイズ高速走行軌道実験設備
軌道上を走行する台車は大きな加速度に耐えられ、かつ出来るだけ軽量化することが求められます。安全率は一般の航空機と同等の1.5で設計されます。有限要素法による構造解析と静荷重試験を経て部材交換を繰り返し、ぎりぎりの重量で設計されたRS-702スレッドは時速405kmまで達し、10Gの加速度で安全に停止しました。数回の実験の後、非破壊検査においても目立った傷等は認められませんでした。この設計プロセスは今後、超音速で走行するフルスケールスレッドにも適用されます。
RS-701スレッド(スチール溶接構造)
RS-702スレッド(アルミチャネル+鉄製ガセットプレート)
MSC NASTRANによるRS-702スレッドの全機構造解析(水制動板へ3tonの荷重をかけた場合の変位量)
時速400kmに達するスレッドは、レール間に設置された水路(全長143m)に制動板(バケット)を突入させることで安全に減速・停止します。水の抵抗は速度の二乗に比例するため、一定水位では最初に大きな減速Gがかかるものの、その制動力は次第に低下します。限られた距離で最適な減速を行うには水位を多段階にすることが有効です。台車やペイロードの許容Gを上回らないよう、供試体の空気抵抗や台車スリッパーのレール摩擦を考慮した速度プロファイルの事前予測ツールを開発し、減速度に応じた最適な水位を最大10段階で決定しています。高速で突入する最初の区間では僅かに25mmの水位で1トンもの制動力が発生します。このため、走行前の実水位はmm単位で厳重に管理されます。
減速用水路に浸された制動板(バケット)
時速400kmで減速水路に突入するRS702スレッド
ハイブリッドロケットはアクリル・ポリエチレン等のプラスチック筒に酸素を流して燃焼させるもので、火薬を用いたロケットエンジン(固体ロケット)や液体燃料を混合して着火するロケットエンジン(液体ロケット)に比して輸送・保管・運用上の安全性・簡便性が極めて高いものです。本学では推力100kg程度のハイブリッドロケットを4本クラスタ化して用いるためのノウハウを獲得し、斉時性の高い着火、および的確な推力カーブの予測を実現しています。
ハイブリッドロケット4本の斉時着火