研究内容

VR(バーチャルリアリティー,仮想現実)による河川空間デザインの研究

 河川整備においてスムーズに合意形成を促すためのツールは大きな役割を果たす.これまで住民への説明の際に,河川改修後のイメージを模型や図面等を用いて説明していたが,イメージが伝わりづらい,実際のサイズ感が分かりづらいといった課題があった.一方,CGやVRといったツールは3次元イメージを表示するには有効だが,素人が作成するのは難しく,時間とコストもかかってきた.そこで,ゲームエンジンを使ってVRを作成し,ユーザーが自由に移動して視点場を変えることのできるVT(バーチャルツアー)といった技術に着目した.

 この研究で対象とした北海道室蘭市を流れる知利別川は,北海道の管理する二級河川で,河川環境や周辺への影響を考慮すべくワークショップを開催し,市民の意見を取り入れながら河川環境の整備を進めようとしており,VRやVTで作成した画像コンテンツを合意形成ツールとして活用することを目指している.


図 ゲームソフト(Unreal Engine)で作成したVR画像(左)とVT画像(右)
(室蘭市知利別川)


写真 河川の環境整備のあり方を議論するワークショップ(2022年10月23日)

参考;西島茉凜,西島星蓮,中津川誠,曽我聡起,飯田譲,バーチャルツアーを用いた河川改修のための合意形成ツールの提案,土木学会北海道支部論文報告集,第79号,2023.1.(掲載予定)

データ駆動型(機械学習)手法・モデル駆動型手法を駆使したダム流入量予測の研究

 近年,気候変動の影響とみられる大水害が全国的に常態化するなか,治水目的のダムだけでなく,利水ダムも含めたあらゆる既存ダムの総力をあげて治水機能の向上を図ることが求められている.そのため,いついかなるダムであっても流入量を適切に予測でき,事前放流などで貯留能力を増大できる方策が求められている.予測には,物理的手法に基づくモデル駆動型,統計的手法に基づくデータ駆動型の手法があるが,我々は後者に属する機械学習手法の有用性を示してきた.この研究は,モデル駆動型,データ駆動型の各手法のパフォーマンスを評価し,現場への実装を意識して上記課題に有用な手法を提案することで,気候変動で激甚化する水害に対峙する社会の要請に応えることを目指す.


図 スパースモデリング(Elastic Net)による24時間先のダム積算流入量の予測結果


図 北海道のダム(既設176基(貯水容量26億m3)うち利水116基(10億m3))の位置
北海道土地水対策課提供データ(2019.1現在)に基づき作成

参考;小嶋侑,中津川誠,小林洋介,山洞智弘,Elastic Netによるダム流入量予測手法の一般化に関する研究,土木学会AI・データサイエンス論文集3巻J2号,pp.498-507,2022.8.DOI https://doi.org/10.11532/jsceiii.3.J2_498

気候変動による積雪寒冷地ダムの異常洪水時対応と治水機能強化策の研究

 積雪寒冷地の多目的ダムでは融雪期に利水の確保と同時に,出水時の洪水調節に留意する必要がある.将来は気候変動による融雪期の早まり,季節外れの大雨,洪水期である夏期にも豪雨の増加が懸念され,ダムの洪水調節機能が最大限発揮できる方策が求められる.

 この研究では,d4PDFの降雨量と気温のアンサンブルデータを用い,北海道の豊平川上流部にある2つのダムを対象に,現在気候と将来気候における降雨と融雪がもたらす異常洪水時防災操作の発生頻度を推算した.また,両ダムの機能と水文特性を勘案し,容量の振替によって治水安全度の向上が可能かを検証した.結果として,気候変動に対する適応策としてダムの連携が有効であることを示した.


写真 豊平峡ダムで融雪期に行われた放流(2000年5月13日)


図 d4PDFの将来気候における現状操作時と容量振替時の異常洪水時防災操作の頻度
(定山渓ダムの制限水位を2m上げた分の治水容量を豊平峡ダムに振替えると,定山渓ダムの異常洪水時防災操作の頻度は変わらない(下)一方,豊平峡ダムの頻度は8割以上減少(上))

参考;西島星蓮,中津川誠,ダムの連携による積雪寒冷地の水害リスク軽減に関する研究,土木学会論文集B1(水工学), Vol.78,No.2,I_1273-I_1278,2022.

気候変動による水害リスク評価の研究(1)

 d4PDF(地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(database for Policy Decision making for Future climate change)を用いることで,気候の不確実性に起因する豪雨事例を想定した.それによって,本川・石狩川のバックウォーターの影響を受ける水害に脆弱な地域(千歳川流域)を対象に,氾濫リスクの推定を行った.また,遊水地をはじめとした治水施設群による減災効果を推定し,気候変動に伴う水害への適応策を検討した.


写真 石狩川と千歳川の合流点の空中写真


図 現在気候最悪事例についての施設(ダム・遊水地・ポンプ)無し(左)と有り(右)の場合の浸水範囲・浸水深の比較

参考;関洵哉,中津川誠,、Nguyen Thanh Thu,沖岳大,大量アンサンブル降雨情報を用いた地形的脆弱性を有する低平地河川の洪水リスクの推定,土木学会論文集B1(水工学), Vol.76,No.2,I_73-I_78,2020.DOI https://doi.org/10.2208/jscejhe.76.2_I_73

気候変動による水害リスク評価の研究(2)

 d4PDF(地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(database for Policy Decision making for Future climate change)を用いることで,気候の不確実性に起因する豪雨事例を想定した.それによって,大都市札幌の中心部を貫流するため水害曝露人口が多く,かつ急流河川のため,高速流や侵食が懸念される豊平川を対象に,iRIC(International River Interface Cooperative)を用いた河床変動を含む水理計算をおこない,急流河川における侵食危険度の評価を行った.とくに継続時間の長い洪水の危険度が大きいことを示した.


図 d4PDF降雨量データを用いた豊平川の流量計算結果例(左)とS56年洪水時の高速流(右)
(参考:豊平川の計画雨量310mm/72h、計画高水流量2,000m3/s、S56(1981)年洪水時ピーク流量1,417m3/s)


図 アンサンブル気候データとiRICを用いた豊平川の侵食危険度(摩擦速度>0.3m/s)の推定例

参考;川井翼,中津川誠,気候変動に伴う流量と河床変動を考慮した急流河川の侵食危険度に関する研究,土木学会論文集B1(水工学),Vol.78,No.2,I_61-I_66,2022.