水素吸蔵合金について

 カーボンニュートラルに向けた水素エネルギー社会実現のためには、水素をつくる、貯める、使う技術が重要です。これら水素の「製造」、「貯蔵・輸送」、「利用」の主に3つで水素サプライチェーンと呼んでいます。私たちは特に水素を安心安全に貯蔵・輸送する方法水素吸蔵合金(水素貯蔵材料)に注目して研究しています。

水素吸蔵合金について

 水素吸蔵合金とは、水素を吸蔵し、そして吸蔵した水素を可逆的に放出することができる合金で、水素貯蔵合金とも呼ばれます。また、水素は金属格子中に主に原子状またはイオンの状態で、金属結合またはイオン結合していることから、MH(Metal Hydride)とも呼ばれます。
 一般に水素をある圧力より加圧することにより吸蔵し(発熱反応)、減圧することにより放出します(吸熱反応)。


図 水素吸蔵合金の反応とその用途例

 

 水素吸蔵合金の用途として
  1)水素貯蔵タンクの媒体
  2)ニッケル-二次水素電池の負極材料
  3)ヒートポンプ
  4)コンプレッサー
等が挙げられます。

 主な水素吸蔵合金は、自己の体積の約100,000%(1,000倍)以上の水素ガス(常温1気圧)を吸蔵することができ、コンパクトに水素を貯蔵することができます。高圧ガス法(10気圧以上)に抵触しない低圧水素を輸送。貯蔵することによって、街区(居住地)や商用施設への安心安全な水素サプライチェーン構築の可能性を広げることができます。

水素吸蔵合金に望まれる特性

  ここでは燃料電池自動車の水素貯蔵タンクへの媒体を目的として、水素吸蔵合金において望まれる諸特性について説明します。
1)水素吸蔵放出量が大きい
 自動車の航続距離を伸ばすためには、コンパクトかつ軽量に水素を大量に吸蔵する能力がなければいけません。一般に、mass%(質量%)で評価されることが多く、例えば3mass%吸蔵とすると、合金100kgあたり3kg(33,600リットル)の水素を吸蔵できることになります。
 現在はこの質量あたりの吸蔵量(mass%)について注目されるケースが多いですが、水素吸蔵合金のメリットはコンパクト性ですので、居住性が重視される自動車には体積あたりの吸蔵量(kgH2/m3)についても評価する必要があります。
2)吸放出圧が1~10気圧
 水素の吸蔵放出は、熱力学的な平衡反応として理解されます。このため水素の放出圧(平衡圧)と次に述べる動作温度は、それそれの合金固有の挙動を示します。
 さて水素タンクを考えた場合、水素を取り出すために減圧(真空)ポンプを取り付けるのことはリーズナブルな考え方ではありません。バルブ(弁)を開けると自然と放出させるためには、大気圧よりわずかに高い圧力で放出することが求められます。
 吸蔵圧は放出圧より高くなりますが、高圧ガス保安法に触れない10気圧未満(低圧水素ガス)であれば、様々なメリットがあります。
3)動作温度が常温付近
 マグネシウム金属やアルカリ金属などは、大量の水素を吸蔵することで知られていますが、これらは300~1000℃あるいはそれ以上に加熱しないと水素を放出しません。水素タンクに高温の加熱装置を付けるのは、良い方法ではありませんので、燃料電池などのシステムの排熱を利用できるせいぜい80℃(将来的には150℃程度)以下で、水素を吸蔵・放出する合金特性でなければいけません。
4)適切な反応速度
 既に述べられているとおり、水素吸蔵・放出は、熱力学的な反応によるものです。このため水素との反応速度は、「必要な時に必要な量の水素」を得るために速くなければいけません。  実はこの水素吸蔵合金の反応速度がそこそこなのが、貯蔵方式にとってのメリットにもなります。
5)耐久性が高い(サイクル特性)
 充填(吸蔵)・放出のサイクルを繰り返していると、一般に水素吸蔵合金は水素吸蔵量が減少していきます(劣化)。1000サイクルで初期の容量の90%以上を維持することが望まれています。
6)低コスト
 当然ながら、安く作ることが出来れば、普及へのスピードがよりはやくなると思います。

水素吸蔵合金や金属の水素化反応の用途開発

 水素エネルギーの貯蔵だけではなく、水素のもつ様々な機能を利用することで、水素吸蔵合金や金属と水素の反応を利用した新しい応用方法についても我々は検討しています。

■  必要な時に水素を放出する材料として
 水素のもつ様々な機能を利用し、水素吸蔵合金や金属水素化物の新しい用途・デバイスの設計を行っています。

 水素吸収剤として
 空間中に不可避に生成する水素の捕集剤。吸収剤として可能性があります。

 物質・材料中の水素機能
 物質中に水素が機能することで超伝導の発現や、磁性機能の向上など様々な効果が期待されます。
また、一部の金属材料を水素化・脱水素化を行うことで、材料の微細組織を変化させ、強度や磁石特性などの向上することが知られています。