ヘレニズム期の墓の特徴

 地中海世界におけるヘレニズム期の墓は、ギリシア建築史において特殊な位置を占めています。すなわち、神殿その他の建築に見られるように、大抵の古代ギリシア建築は、建築の種類毎にほぼ決まった建築形態を持っています。しかし、ヘレニズム期の墓は、「2つとして同じ形態を持つ墓はない」といわれるほど、豊富な建築形態を持っています。しかしながら、ヘレニズム期の墓は、歴史的にも、使用されている建築言語においても、歴としたギリシア建築であり、古代世界の七不思議にも数えられたハリカルナソスのマウソレイオンのように優れた建築物を数多く含有してます。
 このヘレニズム期の墓における新たな建築形態の模索は、既存の建築言語の新たな組み合わせの模索でもあり、新たな建築言語自体の模索でもあります。これにより育まれたヘレニズム期の墓の豊富な建築形態や新たな価値観は、その後のローマ建築へ、例えば豊富な建築言語の提供と、その選択の自由の普遍化といった点で、大きく貢献したであろうことは想像に難くありません。
 ギリシア建築として特殊な位置を占め、ローマ建築への移行期に位置するヘレニズム期の墓を整理し、建築史の流れの中に組み込むことは、ギリシア建築史、及び西洋建築史にとって重要なことだと思われます。
ヘレニズム期の墓の分類法

 ヘレニズム期の墓は、現時点で130基以上報告されています。しかし、未調査の墓もあるので、実際のヘレニズム期の墓の数は、130基を大きく上回ると思われます。また、ヘレニズム期の墓は、多種多様な建築形態を持っています。そのため、闇雲にヘレニズム期の墓を体系化しようとしても、その作業は困難なものとなります。そこで、本研究では、以下に記したフェダックの分類法
の一部である、構造を基準とした4つの分類を採用しています。

【 ヘレニズム期の墓の分類法1)
@ 家型墓
 地上に切石積みで建造された墓を指す。
A 磨崖墓
 岩壁に彫り込んで造られた墓を指す。一見、家型墓のように完全に掘り出されたものもあるが、岩を掘り出して造られたものは全て磨崖墓とする。
B 墳墓
 墓室や墓を保護するために土を盛った墓を墳墓とする。ケラマイコスの円形墳墓のように、外側が切石積みで建造されて、一見家型墓に見えるものでも、内部に土が充填された墓は墳墓とする。
C 複合墓
 岩を彫り込んで造られた部分と切石積みで造られた部分とで構成される墓を指す。


 1) Fedak, J., Monumental Tombs of the Hellenistic Age (Toronto 1990)pp.18-22
図版出展
 ネレイドモニュメント:前掲書 Fedak 1990, p.297, fig.62
 アミンタスの墓:Stucchi S., Architettura Cirenaica (Roma 1975)p.156, fig.134
 ケラマイコスの墳墓:武田明純撮影
 中庭N65号墓:
前掲書 Fedak 1990, p.297, fig.62
@ 家型墓 A 磨崖墓 B 墳墓 C 複合墓


ネレイドモニュメント


アミンタスの墓


ケラマイコスの墳墓


中庭N65号墓
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