油空圧機器のトライボロジー(フルイドパワートライボロジー)

 航空機の方向舵,自動車のパワーステアリングやABS,潜水艇の ハンド(マニピュレータ),エレベータ,福祉介助機器,産業用ロボッ ト,建設機械をはじめ,私たちの身近な多くの機械に,油や空気の圧 力を利用したシステム(油空圧システム)が用いられています. これらのシステムを安全に,しかも効率よく作動させるためには,こ れらの機器の可動部(しゅう動部)が適切に設計されていることが不 可欠です. このしゅう動部におけるさまざまな物理的・化学的な現象を,学問的 な言葉で「トライボロジー」といいます . 私たちのグループでは,いろいろな角度から,このトライボロジーを 解明して,最適なシステムを構成するための基礎的な研究を行っています.



ピストンポンプ・モータに用いられる球面軸受に関する研究

 ピストンポンプ・モータの主要なしゅう動部のひとつに,ピストン とスリッパ軸受の継手部に設けられている球面軸受があります. この球面軸受は,一種の静圧軸受の構造を呈しています. 実機では寸法の制約が強いために,しゅう動部に生じる静圧負荷容量 のみで荷重を支えることは不可能ですので,そのしゅう動面の一部で 固体接触を生じる潤滑状態,すなわち混合潤滑状態での作動を前提と した設計が余儀なくされることになります.

 ところが,これまでの球面軸受に関する研究は,理論的には流体潤滑 状態での取扱いに留まっていますし,また実験的には一般性の高い結論 を得るまでには至っていません. したがいまして,この種の球面軸受の設計には,経験値や実機試験に頼 らざるを得ないのが現状であり,実用的な設計法の確立が強く望まれています.

 こうした要請に応えるべく,混合潤滑域を含む静圧軸受理論を球面軸受 に応用した理論的研究ならびに実機の球面軸受を活用した試験機を用いた 実験的研究により,現象解明ならびに最適設計法の確立に挑んでいます.



空気圧シリンダのトライボロジー特性に関する研究

 空気圧シリンダには,近年,高速作動,高精度位置決め作動のみならず, 低速度・加速度域での高精度なストローク制御が一段と強く要請されています.

しかし,しゅう動部の摩擦特性(スティック・スリップ)に基因する非線形特 性が,この実現を阻んでいます.

 この問題点を克服するために,パッキンの粘弾性特性および弾性流体潤滑理 論に基づくトライボロジーに着目した実験的および理論的アプローチから, シール特性の改善を図る研究を行っています.



ベアリングの最適設計

 自動車や多くの産業機械では,たとえばスポーツカーの車軸やガスタービ ンの主軸などは,高速回転する軸を安全に,しかも効率良く支持しなければ なりません. この機械部品を「軸受(ベアリング)」と呼びます. 私たちは,このような過酷な使用条件にも適用可能な軸受に対する 設計法を構築するために,表面の粗さ,部品の変形,潤滑油の発熱 などの影響を取り入れた,一歩踏込んだ研究を行っています.



混合潤滑域や部材弾性変形を含む静圧軸受の特性解明

 次世代の液圧システムを考えた場合,そのポンプ・モータには, より一層の小形・高圧化ならびに低振動・騒音化はもとより,自然環 境や人間社会に優しい液圧(水圧)技術への対応が要請されましょう. このためには,トライボロジー的な対策が不可欠であり,したがって, 構造上,そのしゅう動部に作用する荷重を合理的に支持できる静圧軸 受機構の採用が適します. ただし,しゅう動面の粗さ突起の干渉や接触,および部材の弾性変形 の影響などまでを含めて取扱うことが肝要となります. そこで,混合潤滑域や部材の弾性変形まで含めた静圧軸受のトライ ボロジー特性を,基礎的な現象にまで踏み込んで解明しています.



ベアリングの最適設計

 ベアリング(軸受)は,各種回転機械や油空圧機器をはじめ, さまざまな機械のしゅう動部に使用されています. その軸受に作用する荷重や回転数が小さい場合や,その大きさに制 限のない場合には,比較的簡易な,自由な設計ができるのですが, たとえば,ガスタービンの主軸を支える軸受などには,高荷重,高 回転数のもとでの安全な運転が強く要求されますし,油圧ポンプ・ モータのしゅう動部などには大きさに対して厳しい設計上の制約が 与えられます. これらの設計には,従来の計算図表などを用いた方法では限界があ り,物理現象を的確に表した理論モデルによる数値計算が必要となっ てきます. 一方,近年のパーソナルコンピュータの性能向上には目の見はるも のがあり,それぞれのエンジニアがかなり大規模な計算を手軽に行 えるようになってきました. そこで,こうした設計条件の厳しい場合にも適用できる最適設計法 の確立を目指した研究を,計算機援用工学/設計(CAE/CAD) の立場から進めています.



弾性流体潤滑(EHL)

 転がり軸受や歯車の潤滑面には,大きな力が作用するために, 非常に高い圧力が生じます(たとえば,1平方ミリメートル あたり100キログラム重!). そのような状況では,部材は弾性変形を生じ,潤滑剤(油) の粘度は,指数関数的に増加します. この現象は,弾性流体潤滑(EHL)と呼ばれており,この 数理モデルは,弾性流体潤滑理論として研究されています. 特に,転がりのみならず,すべりを伴う場合,潤滑剤の 挙動はさらに複雑になり(非ニュートン流体), その潤滑面での発熱の影響も,大きくクローズアップ されてきます.



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