超小型衛星「ひろがり」の概要

室蘭工業大学は、2Uサイズ超小型人工衛星「ひろがり」を大阪府立大学小型宇宙機システム研究センターと共同開発しました。
室蘭工業大学の宇宙機構造工学研究室では、「ひろがり」のミッション部の発案と開発を担当しました。
開発の最終段階はコロナ禍となり、開発を終えられるのか?!と不安な時期もありました。しかしその困難を乗り越え、2020年10月16日に、「ひろがり」のFM(フライトモデル)をJAXAへ無事に引き渡しました。
その後、2021年2月21日午前2時36分(日本時間)に、米国のアンタレスロケットにより国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げられました。
2021年3月14日には、ISS日本実験棟「きぼう」から、野口宇宙飛行士による放出装置(J-SSOD)のオペレーションのもと、宇宙空間へ無事に放出されました。
放出以降、軌道上の「ひろがり」からの産声を聞くべく、電波受信を試みていましたが、約1週間後の2021年3月21日午後8時30分頃に日本上空を通過するタイミングにおいて、大阪府立大学局と通信が確立し、「ひろがり」の宇宙からの第一声を聴くことができました。開発チーム一同、歓喜の瞬間でした!!
3月25日から「定常運用フェーズ」の実験を開始しました。
4月7日には、「ひろがり」衛星の名前の由来でもあり、研究の最大の目的でもある「2次元展開平板構造の正常な展開」の成功を確認することができ、展開形状計測実験に移行し、軌道上データ取得とデータ解析を続けました。 ★宇宙から届いた「ひろがり」の見事な展開画像はこちら→
更に、4月17日からは「後期運用フェーズ」として長期間の展開形状経時変化の計測実験に移行しました。計画した実験を終え、12月6日には大阪府立大学と共同でミッション成果報告記者会見を開催しました。なお、これらの学術的報告として、2021年11月の第65回宇宙科学技術連合講演会において成果発表しました[文献7]。
「ひろがり」はミッション成果報告記者会見時点においても予想軌道上寿命を大きく超えて健全に運用されておりましたが、2022年4月16日に大気圏再突入をもって運用を終了しました。

「ひろがり」では、厚みのある平板をぴったり折りたたみ、すきまや段差もなく平面に広げることができる2次元展開平板構造(通称:厚板ミウラ折り)を軌道上で展開すること、および、光学的形状計測法である格子投影法を応用した手法によってその展開形状を軌道上で計測すること、この2つが当研究室開発チームで論議を重ね提案・開発・インテグレーションしたミッションであり、どちらも世界初の試みです。
今回は、2Uサイズという超小型衛星ミッション部での実証実験ですが、この2つのアイデアは、例えば将来の宇宙太陽光発電システムに必要とされる超大型宇宙構造物にも適用可能な平面構造の収納・展開・高精度形状計測法です。

1.ミッション概要

サクセスクライテリア

・ミニマムサクセス :厚板ミウラ折りパネル展開
・フルサクセス :厚板ミウラ折りパネルの形状計測
・エクストラサクセス:厚板ミウラ折りパネル形状の時刻歴変化計測

超小型衛星「ひろがり」ミッション機器構成超小型衛星「ひろがり」ミッション機器構成

2.ミッションフロー

パドル展開からデータ解析までのフロー

パドル展開からデータ解析までのフロー

3.厚板ミウラ折りパネル

3.1 厚板ミウラ折りパネルとは

平面型SSPSや大型フェーズドアレイアンテナのような厚みのある大型宇宙平面構造物をミウラ折りをもとにして折りたたむ方法を提案した.

大型フェーズドアレイアンテナ

大型フェーズドアレイアンテナ
Daisuke Jodoi, etc. “Study on deployment and Method for 30m class Large Phased Array Antenna,” Proceeding of 60th Space Science and Technology Conference, JSASS-2016-4581, 4D02, 2016.

ミウラ折り

・対角方向に引っ張るだけで2次元同期展開できる.
・折り線が全て直線で構成されている.
・紙や膜を折りたたむならば厚みを無視できるが,板構造を折りたたむには厚みの考慮が必須.

ミウラ折り(動画)出典元:引用-Wikipedia

厚みを考慮したミウラ折り

折り線を板厚方向に切込むことで折りたたみを可能にした.(参考文献[1][2][3])

厚みを考慮したミウラ折り(動画)

3.2 厚板ミウラ折りパネルの製作方法

パネル⇒ ・PEEK樹脂,ウルテム,セプラを用いることを検討している.
  ・部品成型は,外注して機械加工する.
  ・熱真空試験を行い,材料選定が適切か判断する.
   
ヒンジ部⇒ ・カプトンテープを各ヒンジ部に貼り付ける.
  ・粘着性を高めるため,パネルの表面には研磨処理を施す.
  ・樹脂との接着性や強度を各種試験により確かめる.
  ・テープが裂けることを防ぐため,パネルエッジに適切なRを設ける.
  ・テープヒンジに折り癖がつきにくくするため,下図のようにパネル間に隙間を開け,テープヒンジが円弧を描くようにする.
格子描画⇒ ・二次元格子を描画したものをパネル表面に貼り付ける.
  ・計測実験を行い,適切に格子を描画できているかを確認する.

4.伸展機構

4.1 機器構成

機器構成

4.2 ワイヤ

ワイヤ

4.3 タケノコバネ,タケノコバネキャップ

タケノコバネ,タケノコバネキャップ

4.4 タケノコバネ固定台

タケノコバネ固定台

4.5 リール,ロータリーダンパー

リール,ロータリーダンパー
真空グリス宇宙有機材料アウトガスデータ集より
http://matdb.jaxa.jp/Outgas/OG_search_j.html

4.6タケノコバネ展開の様子

タケノコバネの展開(動画)

5.計測系

5.1 展開状態ミウラ折りパネル平面度解析方法

「ひろがり」におけるミッションのひとつとして、展開状態の二次元展開平板構造(厚板ミウラ折りパネル)の表面形状計測を光学的形状計測法により行う。
このために、2次元格子を計測対象物(二次元展開平板構造)のカメラに対している側の表面に描画し、衛星上部の左右蓋構造が所定の位置に展開せられ、設置した2台のカメラにより2次元格子を撮影する。 撮影された写真は、地上に送信され、サンプリングモアレ法に基づき、高速・高精度かつ簡便に表面形状が算出される。
この計測手法は、格子投影法の原理を応用したものであるが、格子を投影するプロジェクターを必要とせず、2次元格子貼付2カメラ法と呼んでいる高精度形状計測法である。 格子投影法の原理を応用した高精度形状計測法を宇宙空間で実証するのは初めてであり、これからは宇宙空間で盛んに利用される手法であると考えている。(参考文献[4][5][6])

5.2 計測手法概要(1)サンプリングモアレ法について

サンプリングモアレ法とは,位相解析手法のことである

サンプリングモアレ法について

5.3 計測手法概要(2)2カメラ法について

計測対象とは別に基準面を2面撮影する.

カメラの視線が基準面と交わる点からカメラの視線式を算出する.

基準面間に空間座標を形成する.

計測対象物上で2つのカメラの視線が交わる点を求めることで,物体の表面形状を求める.

この手法で計測すると,計測対象物の絶対形状を計測できる.

計測概念図計測概念図

5.4 使用機器

5.5 計測方法

・基準面間10mm

・基準面は平板を使用

・基準面とミウラ折りパネルに同一サイズの格子を描画

・ミウラ折りパネル展開位置は基準面1位置から5mmの地点(2つの基準面の中間地点)に来ることを想定 ・基準面撮影は,ミッションパネル取り付け前に衛星構体を用いてFM総合試験の一環として行うことを予定している.

・基準面撮影時(右上図)は,治具を用いて基準面を一軸スライダで10mm移動させる.

基準面撮影時
(地上)基準面撮影時(地上)
ミウラ折りパネル撮影時
(軌道上)ミウラ折りパネル撮影時(軌道上)

6.成果の概要

 「ひろがり」ミッション部は、タケノコバネで二次元展開板構造を展開した後、パドルに搭載したカメラによる画像で二次元展開板構造の展開状況やパネル要素およびパネル要素同士を結合するテープヒンジへの環境による影響などを評価した。

宇宙空間におけるタケノコバネの進展と二次元展開板構造の展開のようす

 二次元展開板構造は、タケノコバネにより展開した後にさらに時刻経過とともに展開が進んだことが示された。また、-Y側パドルが一度に完全展開せず段階的に展開したこと、宇宙環境によるヒンジテープやパネルの大きな劣化が見られないこと、タケノコバネが徐々に伸展していることも同時に確認された。

二次元展開板構造の表面形状計測

 更に、二次元展開板構造の表面形状計測を行ない、サンプリングモアレ法とステレオ視を用いた2カメラ法による3次元表面形状計測を行った。軌道寿命を大きく取れたため、表面形状計測だけでなく、表面形状の時刻歴変化も同時に評価できた。
 撮影された画像は「全体モード」(図1(a))と「5領域分割モード」(図1(b))の2種類がある。「全体モード」では、軌道上で1024×1280 [pixel] で二次元展開板構造全体を撮影した画像をダウンリンクの制約上 512×512 [pixel] まで圧縮して送信した。少ないダウンリンク回数で全体形状を得ることが出来る方法である。一方「5領域分割モード」は、1024×1280 [pixel] で撮影されたパネルの領域を 512×512 [pixel] に5分割した画像(重複部分あり)を複数回に分けてダウンリンクした。ダウンリンク後に画像結合して元画像を復元することから、画像の圧縮がない高解像度画像を得ることができる。

図1 全体モードと5領域分割モードの違い

画像解析による3次元形状とパドルの展開状況の推定

 5領域分割モード画像の例を図2に示す。2カメラ法で解析して得られた3次元形状の例を図3に示す。+Y側カメラを搭載したパドルが展開角度不足であることがわかる。このため、2カメラ法による形状解析手法が可能であることは実証されたが、結果として定量的評価ができる全体形状を得ることはできなかった。図3で、二次元展開板構造の折り目が確認できる。長期軌道上運用による表面形状の時刻歴変化は確認できた。

図2 2021/05/20 22:27(JST)撮影の画像(5領域分割モード)
図3 形状計測解析結果の側面図

 また、全体モード画像からも2カメラ法で解析した3次元形状を取得した。5領域分割モード画像を2カメラ法で解析した3次元形状と比較したところ、5領域分割モードで撮影した画像を用いる方が形状計測に有効であることがわかった。
 +Y側パドルの不完全展開を再現するために、撮影画像と、3次元CAD設計ソフトウェア(SolidWorks)とを用いて、パドル展開角度の推定を行った(図4)。パネルの展開角度 θpanel=122[°] 、タケノコバネの伸展長さを伸展方向に L=260[mm] と仮定して検証した結果が図5である。図5(b)で+Y側パドルの推定値が θ+Ypaddle=73[°] となり、画像とCAD上の見かけがほぼ一致している。これより、+Yパドルの展開角が設計値の 90[°] から大きく乖離したために二次元展開板構造の全体は映らなかったことがCAD上でも再現できた。これらより、パドルの展開状況の推定を行うこともできた。

図4 +Y側パドルの展開状況推定諸元
図5 パドルの展開状況推定結果

まとめ

 以上が超小型衛星「ひろがり」のミッション概要とその運用成果の報告である。本ミッションは、大型宇宙展開構造物の構築に有用な要素技術である「ミウラ折りを応用した厚みのある二次元展開板構造」と、構築後に高精度構造形状を維持するために必要なその場計測法である「二次元格子を用いた光学的表面形状計測技術」に着目し、それぞれ軌道上で実証した。二つとも室蘭工業大学宇宙機構造工学研究室において脈々と続けられて来た研究の最近の成果であり、タイミング良く宇宙実証の機会に恵まれた。また、衛星開発に興味を持つ仲間が多く在学する学年であったことも非常に幸いした。これら二つの大きな学術的・技術的目的を掲げて、搭載のために設計・製作・試験した二次元展開板構造は軌道上展開を達成し、その後も宇宙環境などによる影響を大きく受けることなく軌道寿命の尽きるまで構造を維持した。二次元格子を用いた光学的表面形状計測は、2台のカメラのうち-Y側のカメラを装着した展開パドルが十分に開き切らなかったため部分的ではあるが表面形状解析を行い二次元展開板構造の展開形状を取得することができた。この他に、宇宙科学技術連合講演会2021講演番号4J04[7]で報告したように、SolidWorksを用いたパドルの展開角度推定を行い、パドルが開き切らなかった状態での撮影画像の再現も行った。また補足的に Click Measure と MATLAB を用いた二次元展開板構造の展開角度推定を実施して、展開形状計測とその時刻歴変化も確認することができた。
 「ひろがり」の立ち上げから全体取りまとめ、運用に至るまで共に力を尽くしてくださいました大阪府立大学小型宇宙機システム研究センターの皆様、クラウドファンディングで支援して頂きました皆様、および、製作・試験等に関わった関係者に対し、この場を借りて多大なる感謝の意を表します。

参考文献

[1]樋口 健,小山拓人,勝又暢久, “厚さのある平板の2次元収納方法,” JSASS-2015-3064, 第57回構造強度に関する講演会, pp.178-180, (2015).

[2]Shinnosuke Hashimoto, Nobuhisa Katsumata, and Ken Higuchi, “Thick Panel Folding for Developing Microwave-type Planar SSPS,” ISDC2018, National Space Society, (2018).

[3]勝又暢久,橋本真之介,樋口 健, “ミウラ折りを応用した展開板構造による大型構造物の構築,” 第5回宇宙太陽発電(SSPS)シンポジウム, (2019).

[4]林 夏澄, 勝又暢久, 樋口 健, 橋本真之介, 山崎健次, ヘレル ショーン諒,三好賢彦, 小木曽 望, 南部陽介, “2Uサイズ超小型衛星「ひろがり」の研究・開発状況,” 第27回スペース・エンジニアリング・コンファレンス[SEC'18]講演論文集, (2018).

[5]樋口 健, 勝又暢久, 山崎健次, 岩佐貴史, 岸本直子, 藤垣元治, 土居明広,小木曽望, 田中宏明, 石村康生, “主鏡変形量を補正するカセグレインアンテナ構造高精度化確認試験に向けた検討,” JSASS-2019-4593, 第63回宇宙科学技術連合講演会, (2019).

[6]Kenji YAMAZAKI, Ken HIGUCHI, Nobuhisa KATSUMATA, Takashi IWASA, Naoko KISHIMOTO, and Motoharu FUJIGAKI, “Deformation Measurement and the Analysis of Main Reflector for High Structural Accuracy Antenna System,” Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, Vol.19, No.3, pp.384-391, (2021).

[7]佐藤伸成, アン イヨン, 長 飛洋, 樋口 健, 勝又暢久, 内海政春, 小木曽望, 南部陽介, 橋本真之介, 山崎健次, ヘレルショーン諒, 林 夏澄, 三好賢彦, 保志健斗, “超小型人工衛星「ひろがり」ミッション報告 − 二次元展開板構造の軌道上展開試験及び形状計測 −,” 第65回宇宙科学技術連合講演会, 4J04, JSASS-2021-4681, (2021).

関連リンク

大阪府立大学 小型宇宙機システム研究センター HP(http://www.sssrc.aero.osakafu-u.ac.jp/activity/opusat-ii-project/

室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究センターHP(http://www.muroran-it.ac.jp/aprec/

宇宙機構造工学研究室

「ひろがり」ミッション部開発チーム学生一同
(樋口 健・勝又暢久)
お問い合わせ:メールはこちらへ

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