補助事業番号  2020M-183

補助事業名  2020年度地下埋設構造物点検マイクロロボット群の障害物回避通信制御技術 補助事業

補助事業者名 室蘭工業大学理工学部創造工学科 水上雅人

本研究は競輪の補助を受けて実施しました。

 

1 研究の概要

管路内を点検するための移動ロボット群間の通信を無線化することを狙いとして,埋設管路の壁面を媒体とする場合の導波路としてのモデル化手法及び管路壁を媒体とした情報伝送の原理検証を行うとともに,電波伝送における信号劣化や信号特性を考慮した信号処理方法として,各モードを分離する多入力多出力系の信号処理方式に関し,理論考察及びシミュレーションを実施し,管路壁伝搬に適した信号処理方式を明らかにする.さらに,管路を模擬した部分モデル実験系により,制御信号や画像信号の送受信に関する基本動作の検証を行う.

 

2 研究の目的と背景

本研究の目的は,管路壁面を電波伝搬の媒体として用い,制御信号・点検情報を送受信する通信方法及び管路壁を利用した電波伝送における信号劣化や信号特性を考慮した信号処理方法のフィジビリティを検証することと,群ロボットの設備内移動に必要となる自己位置推定と壁面伝送による群ロボット間通信を統合化した障害物回避移動制御の有用性を検証することである.

これらの原理検証を行うことにより,従来課題であった有線伝送が必須の形態から無線化が実現でき,喫緊の社会課題であるインフラ構造物劣化におけるロボットを用いた点検効率化に資することが可能となると考えられる.

 

3 研究内容

(1)管路壁面伝搬通信方法

  PVCは誘電体であるため内側と外側を空気で挟まれたPVC管を円筒形誘電体導波路として考え,円筒形誘電体導波路におけるマイクロ波導波モードの解析を行った.その結果,2.4GHz,5GHz帯のWiFiで用いられる周波数帯でのマイクロ波がPVC管壁に沿って導波モードとして伝搬することができる見通しを確認した(図1).

グラフ, 折れ線グラフ

自動的に生成された説明

 

 

 

 

 

 

 


図1 中空PVC管における〖TE_00モードの分散曲線

実験により,5GHz帯のマイクロ波がPVC管壁を導波モードで伝搬していると考えることができることを示した(図2).次に,実際にPVC管壁伝搬マイクロ波導波モードを用いてデータ信号を送ることで,PVC管壁を用いたデータ伝送の検討を行い,100Mbps擬似ランダム信号の伝送・復調を確認した.

 

グラフィカル ユーザー インターフェイス

自動的に生成された説明 グラフィカル ユーザー インターフェイス が含まれている画像

自動的に生成された説明

 

 

 

 

 

 


図2 2000mmPVC管での周波数特性

 

さらに,CCDカメラで撮影したリアルタイムの映像信号で4.85.2GHzのマイクロ波を変調したものを,PVC管壁に沿って伝送,復調させた後,オシロスコープとモニターで波形とビデオ映像を観測する実験を行った.送受信にはダイポールアンテナを用い,撮影対象物には卓上カレンダーを用いた.その結果,CCDカメラで撮影した対象物の明瞭な映像が得られた(図3).

 

コンピューター関連の機械

低い精度で自動的に生成された説明

 

 

 

 

 

 

 

 


図3 映像伝送実験結果

 

PVC管壁に沿って伝搬するマイクロ波導波モードを用いて映像伝送が可能であることを確認した.これらの結果より,管路壁を媒体とした信号伝送が直径140mmの細径PVC管でも可能なことを明らかにした.

 

(2)信号処理方法

 PVC管路に沿って伝搬するマイクロ波導波モードを使用したマイクロ波通信への MIMO (Multi-Input Multi-Output) 方式の適用によるチャネル容量の増大の可能性について3次元電磁界シミュレーションにより検討を実施した.

シミュレーションに使用した PVC 管の長さは 1 m,管の外径は 140 mm,管の肉厚は 4.1 mm である.PVC 管壁の端部に全長 54 mm のダイポールアンテナを角度 180 度で2つ設置した.図4にMIMO伝送系の信号モデルを示す,

 

 

 

 

 

 

 


図4 MIMO伝送系の信号モデル

 

長さ 1 m PVC 管壁に沿ってマイクロ波を伝搬させた場合の伝搬損失は-24.0 dB となった.一方,PVC 管路内をマイクロ波を伝搬させた場合の損失は -25.2 dB PVC 管壁に沿って伝搬した場合と比較して約 1.2 dB 大きくなった.両モデルとも,PVC管に取り付けたアンテナと平行な方向の部位に電界が集中して PVC 管を伝搬することが明らかとなった.これらの伝搬特性から算出されたPVC 管壁に沿ってマイクロ波を伝搬させた場合の 2.4 GHz におけるチャネル容量は,約 11.8 bit/s/Hz となった.次に,2つの送信ポートと2つの受信ポートの相対位置関係を変え,各伝搬チャネルの空間相関関係を変えることにより,チャネル容量の増加が可能かを検討した.送信ポートに対して受信ポートの位置を90度回転させたモデルでは,受信電力が低下し,チャネル容量が低下するため,送信ポートと受信ポートの相対位置関係が同一である場合が最もチャネル容量が高くなることが明らかとなった(図5).これらの結果より,PVC管壁に沿って伝搬するマイクロ波導波モードを利用した通信システムにおいて,MIMO 通信によるチャネル容量増大が可能であることを明らかにした.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図5 チャネル容量のシミュレーション結果

(3)群ロボットの障害物回避移動制御

  無線による遠隔操作を確認するため,小型管内走行ロボットにコンパクトな無線通信回路実装を行うために必要となる機器構成に関する検討を行った.管内走行ロボットのT分岐部の移動制御方法に関する検討を進めた. 図6に移動制御方法に関するシミュレーション結果を示す.移動制御に関して前後輪の移動制御アルゴリズムを実装し,検証を行った.本アルゴリズムにより,壁面に干渉することなく,T分岐管内での移動が可能な見通しを得た.

 

 

 

 

 

 

 

 


図6 移動制御方法に関するシミュレーション

 

100o管路内走行用ロボット(図7)を用いて,シミュレーション結果の妥当性を検証した.提案した移動制御アルゴリズムを用いて,T分岐の走破が可能となることが示された(図8).

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図7 管内移動ロボット外観               図8 管内移動実験

 

 提案した管内走行用ロボットでは安定性に課題が残っていた.そこで,無線伝送実験を指向し,分岐管や曲管に対する安定走行を主眼に検討を行うこととした.そのため,対象配管内径を65mmから10mmと変更し,アンテナ系が実装可能なようにガイド部を構成するなど,改良施策を進めた.図9に改良試作機の構成を示す.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図9 改良試作機

 

無線回路実装の予備検討として,図10の原理確認実験機を試作した.図11の制御回路を構築し,無線伝送を確認可能なことを確認した.この無線回路をベースに無線アンテナ系の実装検討を進めていく.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図10 無線回路実装用検証機

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図11 無線回路実装用検証用制御回路

4 本研究が実社会にどう活かされるか―展望

本研究で開発された障害物回避通信制御技術が実用化されれば,従来型の管内走行ロボットで必須となる信号線ケーブルや電力伝送ケーブルが不要となるため,より小型な管内走行ロボットを用いた点検や,より複雑な管路構成に対しても適用ができるとういう非常に価値ある工学的有用性が得られる.そのため従来は点検が困難であった細径管路に対しても,効率的に検査を行うことができるため,インフラ構造物点検をロボットによる自動化が実現でき,喫緊の社会課題の解決を加速することに寄与できると考える.

 

5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

これまでにインフラ点検自動化に資する点検ロボットの小型化構成に関する研究を実施しており,全方位移動を可能とする管路内走行ロボット,壁面吸着型移動ロボット,多脚型移動ロボットの機構系及び制御に関する方法の提案やロボットの製作を通じて,点検自動化に関する知見及び小型ロボット製作技術を蓄積してきた.

本事業で研究開発した障害物回避通信制御技術では,管路壁を媒体としたロボット間の信号伝搬の様子が確認でき,映像通信の実施可能性を明らかにすることができた,MIMO技術の活用により,実際のPVC管での構成形態であるストレート管,曲管,分岐管への適用が可能となる見通しを得た.したがって,従来型の管内走行ロボットで必須となる信号線ケーブルが不要となるため,より小型な管内走行ロボットを用いた複雑な管路構成に対して適用ができる可能性を見出すことができた.今後は送受信アンテナを改良し,小型移動ロボットに実装して,実際に想定されるPVC管構成での実証実験に関する研究を推進していきたい.

 

6 本研究にかかわる知財・発表論文等

[1]高橋蒼汰,水上雅人,“小型管内走行ロボットにおける管路内無線通信回路実装の検討”,2020年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,H01,オンライン 91日〜7日(2020

[2]三上隼平,水上雅人,花島直彦,藤平孝,” 細径管内走行マイクロロボットの全方位移動機構の小型化設計”, 第38回日本ロボット学会学術講演会講演論文集, AC3C2-03(1)-(2),オンライン,109日〜11日(2020

[3]三上隼平,水上雅人,花島直彦,藤平孝,“メカナムホイールを用いた管内走行用ロボットの移動機構設計に関する検討”,日本機械学会北海道支部第58回講演会講演論文集, 35日,釧路市・オンライン(2021

[4]野間太桜,吉田光佑,村田博司,枚田明彦,水上雅人, PVC管壁に沿って伝搬するマイクロ波導波モードの通信応用への基礎検討”,2021年度電子情報通信学会総合大会講演論文集,C-14-20,東京・オンライン,39日〜12日(2021)

[5]野間太桜,大田垣祐衣,村田博司,枚田明彦,水上雅人,“PVC管壁伝搬マイクロ波導波モードを用いたビデオ映像伝送”,2022年度電子情報通信学会総合大会講演論文集,C-14-5,新潟・オンライン,315日〜17日(2022)

[6]枚田明彦,村田博司,水上雅人,” PVC管壁に沿って伝搬するマイクロ波を使用したMIMO通信の基礎検討”, 2022年度電子情報通信学会総合大会講演論文集,C-14-6,新潟・オンライン,315日〜17日(2022)

[7]山口征海,水上雅人,村田博司,枚田明彦,“細径管内走行ロボットの管路壁面通信に関する基礎的検討”,ロボティクス・メカトロニクス講演会 '22,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門,1A1-D09,札幌,62日〜3日(2022

 

7 補助事業に係る成果物

(1)補助事業により作成したもの

該当なし

  

(2)(1)以外で当事業において作成したもの

   前述の発表論文など

 

8 事業内容についての問い合わせ先

所属機関名: 室蘭工業大学理工学部創造工学科

(ムロランコウギョウダイガクリコウガクブソウゾウコウガッカ)

住   所: 〒050-8585

北海道室蘭市水元町27-1

担 当 者: 教授 水上雅人(ミズカミマサト)

担当部署: 機械ロボット工学コース(キカイロボットコウガクコース)

E-mail: m-mizukami@mmm.muroran-it.ac.jp

URL: http://www3.muroran-it.ac.jp/pmechsys/index1.html