本研究はJKA補助金(2019年度)により実施されました
1 研究の概要
微小・狭所領域で作業するインフラ点検用マイクロロボットを用いたセンシングロボット群による状態モニタリングシステムを実現するために必要となる要素技術の確立を目指し,微小化構造の観点から加速度センサ等の内界センサを用いた自己位置推定方法,また配置制御の観点から,障害物を判断して,目標位置に移動するため設備内3次元地図構成法,及び目的の位置にセンサロボット群を最適位置するための制御手法の基本検討を行った.
2 研究の目的と背景
多数センサからのビッグデータから機械学習技術を用いて,インフラ構造物の劣化状態分析する方法が活発に検討されている.民生品センサは定期メンテナンスが必要など,まだ実用化に向けた課題は多い.我々は,機能別に構成される小型実装された移動センシングロボット群による状態モニタリングシステムによる上記課題を解決することを試みた.本システム実現には,農地,水中,屋外環境,地下閉鎖空間での構造的,電磁的に障害物が存在する対象への適用可能性が課題となる.本研究では,小型実装に適した自己位置推定方法,障害物をロボット搭載センサで検知し,障害物情報を加味した設備内3次元地図を構成する方法,及び移動センシングロボットを最適配置するために必要となる移動制御方法を提案し,計算機シミュレーション及び原理確認実験により手法の有用性を検証することを目的とした.
3 研究内容
(1)内部センサ情報を用いた自己位置推定方法の高精度化
加速度センサのみを用いた自己位置推定精度の向上のため,振動による誤差の影響を取り除くための基本実験を行った.振動を物理的に除去する手法,回路内にADコンバータを組み込んだ加速度センサを使用し,センサ内部の処理により振動を除去する手法を検討した.
1軸自動ステージを用いた精度評価実験により,250mmストロークに対し,10mm以下の位置推定が可能なことを実証した.
図 加速度センサによる自己位置推定例
(2)目標位置に移動するための障害物回避制御
目標位置に移動するための障害物回避制御を行うために必要となる,設備内の障害物などの情報を小型CMOSカメラで撮影した画像情報と(1)で取得した自己位置推定を組み合わせた設備内3次元MAP構成法の検討を行った.実験では,サーボモータで回転駆動するカメラを用い,配管壁面にマーキングした劣化模擬物を設備内情報として採用し,位置情報と設備内情報を3次元MAPとして構成するアルゴリズムを検証した.1軸方向検証でストローク100mmに対し,数mm以下の精度での位置推定結果を合わせて,取得画像を配管壁面に貼り付けた配管地図が作成可能なことを確認した.
図 位置情報推定結果 図 配管情報付加MAP
(3)移動センシングロボット間の障害物回避
移動センシングロボット群の障害物回避における通信検討に際し,通信を確保する前段で必要な技術として,目的の位置にセンサロボット群を最適位置するための移動制御手法の基本検討を行った.
フィールドモニタリングへの適用を狙いとして,農場を例題とした移動制御に関して,畝などの障害物の回避を考慮し,センサを均等に分散配置するための被覆制御を試みた.数理計画で用いられるボロノイ図をマルチエージェントシステムに適用し,農場を模擬した作業空間を構築し,障害物を考慮した被覆制御の適用可能性について,計算機シミュレーション検証を行った.移動シーケンスアルゴリズムを用いて,理論検証を行った結果,パラメータ設定によっては目的位置への分散配置が可能なことは確認できた.今後はパラメータ設定に関する最適化検証を行う必要があることを明らかにした.
図 農場模擬空間 図 被覆制御アルゴリズム 図 分散配置例
4 本研究が実社会にどう活かされるかー展望
本研究は,インフラ点検ロボットにおける自律移動作業を実現するために必要となる自己位置推定,状態認識,配置制御を対象としており,本事業で得られた成果は,インフラ設備点検用マイクロロボットの実用化に繋がる有用となる基盤技術と考えている.
これまで,比較的大型なインフラ構造物の点検を対象としたロボット技術を微小・狭所領域で作業可能なマイクロロボットへの適用拡大に貢献できるとともに,フィールド実験による技術検証を積み重ねていくことにより,センサばらまき型の状態モニタリングシステムの限界を打破するシステム実現に向けた適用など,新たな付加価値を生み出すという波及効果が期待できる.
5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ
本研究担当者は,これまで,情報通信企業の研究,大学での教育研究活動を通じ,インフラ構造物点検用ロボット開発および通信技術とロボット技術のシステムインテグレーション技術の研究に従事してきた.今回の研究では,インフラ点検ロボットにおける自律作業を実現するために必要となる自己位置推定,状態認識,移動制御に関する要素技術の検証を進め,有用性の確認を行なうことは出来た.今後は,フィールド実験による実用化に関する課題抽出と提案手法改良を継続的に進めていくことで,実用化に向けた貢献ができると考えている.
6 本研究にかかわる知財・発表論文等
[1]福田理俊,原田大輔,阿部遼磨,水上雅人,花島直彦,藤平孝:“加速度センサを使用したインフラ点検用水中ロボットの自己位置推定検証”,日本機械学会北海道支部第55回講演会,日本機械学会北海道支部,日本機械学会北海道支部第55回講演会講演論文集, 333,2017年9月23日
[2]阿部遼磨,福田理俊,水上雅人,花島直彦,藤平孝:” 小型画像センサを用いたインフラ設備内三次元地図構成法の検討”, 日本機械学会北海道学生会,第47回学生員卒業研究発表講演会 講演論文集,510,2018年3月5日
[3]伊藤龍哉,原田大輔,水上雅人,花島直彦,藤平孝:“小経管内走行ロボットにおける障害物回避制御の検討”,日本機械学会北海道学生会,第47回学生員卒業研究発表講演会 講演論文集,515,2018年3月5日
[4]田山翔也,水上雅人,花島直彦,藤平孝:“ボロノイ図を用いた農場環境モニタリングにためのセンサロボット群の被覆制御の検討”,第50回計測自動制御学会北海道支部学術講演会,計測自動制御学会北海道支部,第50回計測自動制御学会北海道支部学術講演会講演論文集,(頁 31-32),2018年3月08日
[5] Int. Symposium on Flexible
Automation, July 15-19,Kanazawa 2018 国際会議にて,口頭発表予定(Self-localization
method for mobile robots to inspect in underground buried
infrastructure-facilities by using acceleration and imaging sensors)