「光」「電気」「熱」「圧力」などの外部からの刺激に応答する物質を創出し、それらの物質が、どのようなメカニズムで外部刺激に応答するのかを物理化学を中心とする基礎科学的観点から明らかにする研究を行っています。また、それらを具体的な応用に結び付けることも意識しています。現在は特に、フォトクロミック材料(光の刺激に応答して色彩が可逆的に変化する材料。また、それに伴って、構造や物性も可逆的に変化する)や固体発光材料に興味をもって研究を進めています。 |
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シアノスチルベン系アモルファス分子蛍光体の発光挙動と光反応性
アモルファス分子材料(室温以上で安定なアモルファスガラスを容易に形成する低分子系材料)は、スピンコート法や結晶試料の摩砕によってもアモルファス膜を形成します。しかし、作製法の違いでアモルファス固体中の微視的構造が異なっている可能性があります。ここでは、一連の新しいシアノスチルベン系アモルファス分子材料を設計・合成するとともに、これらの発光挙動や光反応性を調べ、膜の作製法の違いによって蛍光量子収率や光反応量子収率が異なることを見出し、膜作製法に依存して微視的構造が異なることを示しました (ChemPhotoChem,
2024, in press.)。
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蛍光量子収率 (n=4) |
光化学反応性 (n=4) |
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ジフェニルアントラセン系アモルファス分子発光体を用いるアップコンバージョン発光
微量の白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)を含むBFAPAやDMBPAのトルエン溶液に532
nmのレーザー光を照射すると、照射光よりも光子エネルギーの大きい短波長の光を発します(アップコンバージョン)。PtOEPをドープしたBFAPAやDMBPAのアモルファス膜についても、わずかにアップコンバージョン発光がみとめられ、新しい固体(分子ガラス)系アップコンバージョン材料の開発が期待されます(Chem. Lett.,
2024, 53, upae065.)。
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PtOEPを含むDMBPAのトルエン溶液が、532 nmの緑色のレーザー光の照射により、短波長(青色)の蛍光を発している様子 |
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ガラス基板上を転がる分子ガラス球状マイクロ粒子
ガラス基板上に作製したアゾベンゼン系分子ガラス(BFlABなど)の球状マイクロ粒子に誘起される波長のレーザー光のp-偏光を斜めに照射すると、マイクロ粒子が回転しながら、光源から遠ざかる方向に移動してきます(Chem. Lett.,
2022, 51, 1150-1153.)。
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ガラス基板上のBFlAB粒子の光転回挙動(図の右方向から斜めにp-偏光を照射) |
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アキラル分子の寒天ゲル中におけるキラルフォトメカニカル挙動(Chem.Lett.のEditor's
Choiceに選ばれました!!)
寒天ゲル中に固定したアゾベンゼン系フォトクロミック分子ガラスBFlABの微粒子にレーザー光の偏光を照射すると、粒子が偏光方向と平行に伸長するだけでなく、末端がらせん構造となり、かつ、らせんの巻方向が左巻きに偏るキラルなフォトメカニカル挙動を示すことを見出しました。また、ガラス管内を滑り落ちる寒天ゲルが回転することから、ゲルの左右回転の力学特性に偏りがあることを示しました (Chem. Lett.,
2022, 51, 493-496.)。
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光伸長粒子の末端の 共焦点顕微鏡像 |
ガラス管内を回転しながら 滑り落ちる寒天ゲル |
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息を吹きかけると発光色が変化する混合膜
発光性アモルファス分子材料であるBMBZAと五フッ化安息香酸(PFBA)あるいは安息香酸(BA)の混合膜の発光色は周囲の湿度によって変化し、呼気に応答して発光色が変化する様子を目視で観察できます。また、乾燥状態における発光現象には、励起状態における分子間プロトンが移動(ESPT: excited-state intermolecular
proton transfer)が関与していることが示されました(Asian
J. Org. Chem., 2021, 10, 588-593.)。
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BMBZA-PFBA混合膜の発光色変化 |
BMBZA-BA混合膜の発光色変化 |
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乾燥状態 |
>>> <<< |
高湿度状態 |
乾燥状態 |
>>> <<< |
高湿度状態 |
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ひっかいた部分だけ発光色が変わる膜
固相発光体である新規ビス(シアノスチリル)ベンゼン誘導体CSB-5は、結晶相やアモルファス相では赤橙色のエキシマ−発光を示しますが、これらのうちアモルファス相では、青色光を当て続けると光反応が進行してエキシマ−サイトが減少し、発光色がモノマー由来の緑色に変化します。このような性質を利用すると、結晶状態の膜をひっかいてアモルファス相に変化させた部分だけ発光色が変化する発光パターニングが可能です (Chem. Eur. J.,
2019, 25, 6162-6169.)。
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光誘起発光色変化 |
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偏光を照射すると二段階の構造変形を示す膜
寒天ゲルの表面に作製したアゾベンゼン系の低分子系アモルファス材料(フォトクロミックアモルファス分子材料)であるBFlABの膜にフォトクロミック反応が誘起される波長の偏光を照射すると、偏光方向と垂直なしわができたのち、偏光方向と平行に並んだ紐状構造が形成される二段階の構造変形を示します(Opt. Mater.,
2018, 86, 51-55)。
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寒天ゲル表面のBFlAB膜の光変形 |
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息を吹きかけると色が変化する混合膜
以前に見出したアミノアゾベンゼン系アモルファス分子材料(BBMABなど)と有機酸(PFBAなど)との混合膜の息を吹きかけることに伴う可逆的色彩変化について、用いる有機酸の酸性度や濃度、アミノアゾベンゼンの種類などを変化させることで、色彩や湿度応答性を変化させることができることを示しました。この現象の一般性が示され、目的に合わせた設計が可能になると期待されます(Mater. Chem. Front.,
2018, 2, 90-95) 。
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BBMAB-PFBA混合膜の色彩変化 |
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息を吹きかけると >>> << 吹きかけるのを やめると |
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水蒸気で消去できるメカノフルオロクロミックペーパー
すでにAAPyなどのピレン系誘導体結晶がメカノフルオロクロミズムを示すことを明らかにしていましたが(下記参照)、AAPyを染み込ませた濾紙もメカノフルオロクロミズムを示すことを見出しました。さらに、ここで観測されるメカノフルオロクロミック挙動が結晶系とは全く異なっていることを明らかにし、濾紙の膜厚が変化することが重要な役割を果たしていることを見出しました。濾紙をひっかくと、その部分だけ発光色が変化して文字が読めるようになり、水蒸気にさらすと文字が消去されます (Dyes Pigm., 2017,
141, 48-52)。
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AAPyを染み込ませた濾紙のメカノフルオロクロミズム |
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息を吹きかけると蛍光発光強度が変化する混合膜
発光性アモルファス分子材料であるBMABAやBMAAPとp-トルエンスルホン酸(TsOH)との混合膜は、乾燥した環境下で紫外線を照射しても蛍光をほとんど発しませんが、息を吹きかけると蛍光発光強度が顕著に増大し、吹きかけるのをやめるとまた消光します。この現象は、アゾベンゼン系材料とTsOHとの混合膜で観測された息による色彩変化の場合と同様、呼気中に含まれる水分が影響していると考えられます (ChemistrySelect,
2016, 1, 1737-1740)。
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BMABA-TsOH混合膜の蛍光発光強度変化 |
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息を吹きかけると >>> << 吹きかけるのを やめると |
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偏光を照射すると偏光方向に伸びる粒子
アゾベンゼン系の低分子系アモルファス材料(フォトクロミックアモルファス分子材料)の粒子を寒天ゲル中に保持し、ここにフォトクロミック反応が誘起される波長の偏光を照射すると、微粒子が偏光方向と平行に伸長します (RSC Adv., 2016,
6, 36761-36765)。この現象は、アゾベンゼン系フォトクロミックアモルファス分子材料単独の粒子だけでなく、光反応をおこさない材料との混合粒子でも観測されます(J. Phys. Chem. B,
2018, 122, 7775-7781)。
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寒天ゲル中のBFlAB粒子の光変形 |
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摩砕すると発光色がかわる蛍光色素:その2
すでに報告している系(下参照)とは異なる新しいメカノフルオロクロミック材料として、一連の1-(アルカノイルアミノ)ピレンを開発しました。これらの結晶を摩砕すると青紫色の発光が黄緑色に変化し、エタノールなどの溶剤にさらすと元の発光色に戻ります。結晶中ではアミド基を介しての分子間水素結合により分子配列が規制されてJ会合体を形成していて、そこからの発光が観測されるのに対し、結晶を摩砕すると結晶内の欠陥が増加し、エキシマー発光が増大して発光色が変化すると考えられます。また、溶剤にさらすと格子欠陥が修復され、元の発光色に戻ります (ChemPhysChem,
2015, 16, 3038-3043)。
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AAPyのメカノフルオロクロミズム |
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摩砕 >> |
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溶剤処理 >> |
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息を吹きかけると色が変化する混合膜
アゾベンゼン系アモルファス分子材料であるBMABやPBABとp-トルエンスルホン酸(TsOH)との混合膜は、息を吹きかけると青紫色から黄色に変化し、吹きかけるのをやめると元の青紫色に戻ります。この変化は何度でも繰り返すことができ、応用の観点からも興味がもたれます。この現象は、呼気中に含まれる水分が影響していると考えられます (RSC Adv., 2015,
5, 2934-2937)。
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BMAB-TsOH混合膜の色彩変化 |
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息を吹きかけると >>> << 吹きかけるのをやめると |
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発光色が変化する凝集誘起発光微粒子懸濁液
これまでに、ソルバトフルオロクロミズムやメカノフルオロクロミズムを示すことを明らかにしているBMABAは、エタノール溶液中ではほとんど蛍光を発しませんが、水中に滴下して凝集させると強い蛍光を発するようになります(凝集誘起発光)。これは、水中で凝集して微粒子を形成することにより、消光の原因となっていたエタノール分子がBMABA分子の周囲から排除されるためであると考えられます。興味深いことに、得られた懸濁液を加熱撹拌処理することによって発光色が変化します。これは、懸濁液中のBMABA微粒子がアモルファス(過冷却液体)状態から結晶状態に変化するためと考えられます(ChemPhysChem,
2013, 17, 3898-3901)。
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エタノール溶液(右)を水(左)に 滴下した時の発光の様子 |
凝集微粒子懸濁液の発光色変化 |
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加熱撹拌 >>>>>>>> |
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二成分混合低分子系アモルファス膜の相分離
アゾベンゼン系の低分子系アモルファス材料と四級アンモニウム塩の混合アモルファス膜を加熱していくと、相分離して散逸的なマイクロパターンが形成され、適当な溶媒で洗浄することで、ポジ・ネガ両方のパターンを得ることができます。この相分離は加熱だけでなく光照射によっても誘起でき、混合アモルファス膜にレーザー光を干渉露光した後、ヘキサンで洗浄することにより、四級アンモニウム塩によりレリーフ回折格子を形成させることができます(Appl. Phys. Express,
2013, 6, 035602)。
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相分離後ヘキサンで洗浄して 得られるマイクロパターン |
四級アンモニウム塩で 形成されたSRG |
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光をあてると自ら移動するガラス破片
アゾベンゼン系の低分子系アモルファス材料の膜にレーザー光を斜めに照射すると、膜表面で物質流動がおこることを、少量の量子ドット(QDs)を混合した系で量子ドットが移動していく様子から明らかにしました。さらに、このアモルファス材料の破片を透明基板上におき、基板側からレーザー光を斜めにあてると、このガラス破片が自発的に動いていくことを明らかにしました(J. Mater. Chem.,
2012, 22, 3702-3704)。
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膜表面に物質流動が生じ、QDsが動いていく様子 |
ガラス破片が動いていく様子 |
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摩砕すると発光色がかわる蛍光色素
最近、結晶を機械的に粉砕・摩砕することによって発光色が変化する材料(メカノフルオロクロミック材料)が注目を集めています。本研究では、比較的単純な構造を有する分子BMABAおよびその類似体が、溶液中で溶媒極性に依存して発光色を変化させるソルバトフルオロクロミズムを示すことを明らかにするとともに、新しいタイプのメカノフルオロクロミック材料であることを見出しました(Mater. Lett.,
2011, 65, 2658-2661; Dyes Pigm., 2013,
96, 76-80)。
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BMABAのソルバトフルオロクロミズム |
BMABAのメカノフルオロクロミズム |
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摩 砕 >>> << 室温放置 |
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周囲の分子をひき連れて動くアゾベンゼン誘導体(Chem.Lett.のEditor's
Choiceに選ばれました!!)
アゾベンゼン系材料のアモルファス膜にレーザー光二光波を干渉露光すると、干渉縞に対応する凹凸のレリーフ(表面レリーフ回折格子=SRG)が形成される現象が注目されています。この現象は、光の明部から暗部に向かってアゾベンゼン系分子が移動すること(光誘起物質移動)に基づくと考えられていますが、そのメカニズムの詳細はいまだ明らかとはなっていません。本研究では、光に応答するアゾベンゼン誘導体BMABと光に不活性なm-MTDATAの混合アモルファス膜を用いて光誘起SRG形成の検討を行い、この膜においてはBMAB単独のアモルファス膜よりも大きなSRGが形成されることを明らかにしました。この結果は、光照射下でBMABが移動する際に周囲に存在するm-MTDATA分子も同時に移動していることを示しており、光誘起物質移動のメカニズムを考える際に重要な知見を与えると考えられます(Chem. Lett.,
2011, 40, 473-475)。
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SRG形成に伴う 回折効率変化 |
BMAB:m-MTDATA膜上に 形成されたSRG |
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光の作用でガラス化する単結晶表面
アゾベンゼン誘導体は、単結晶の内部では十分な空間が存在しないため光異性化反応をおこさないと考えられますが、単結晶の表面では反応することが可能であると考えられます。ガラス形成能を有するアゾベンゼン誘導体(アゾベンゼン系フォトクロミックアモルファス分子材料)の単結晶の表面に光照射すると、結晶表面に存在する分子が反応して結晶構造が乱され、単結晶表面にアモルファス層が形成されます(Phys. Chem. Chem. Phys.,
2010, 12, 7772-7774)。
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単結晶表面の光照射に伴う構造変化 |
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光照射 >>>>> |
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光で屈曲するマイクロファイバー(Highlights in Chemical Scienceで紹介されました!!)
アゾベンゼン系フォトクロミックアモルファス分子材料を用いて簡単にマイクロファイバーを作ることが出来ます。このファイバーに光を照射すると、ファイバーが屈曲しますが、照射する光の偏光方向を変えることによって、光源から遠ざかるほうに屈曲したり、近づくほうに屈曲したりします。つまり、光の波長や光源の位置を変えずに偏光方向を変えるだけで、屈曲方向を制御することが出来ます。この現象は、ファイバーの光照射されている部分の表面で誘起される物質移動が関係していると考えられ (J. Mater. Chem., 2010, 20,
2071-2074) 、実際にファイバー中に分散した量子ドット(QDs)の観測により、物質移動が誘起されていることを確認しています(Micromachines, 2013, 4, 128-137)。
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ファイバーの長軸に平行な偏光を照射した場合 >>> 光源から遠ざかる方向に屈曲します |
ファイバーの長軸に垂直な偏光を照射した場合 >>> 光源に近づく方向に屈曲します |
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