高電流電気機器並びに高磁場電磁石に高温超伝導体を適用して省電力及び高効率化を図り、低炭素社会の実現に貢献するためには、磁場応用におけるREBCO線材の臨界電流を維持しながら遮蔽電流磁場を低減することが極めて重要である。本研究では市販のREBCO単芯線に多数の内部スプリットを導入した新しいアイデアによりREBCOスプリット線(多芯構造)を開発し、磁場応用での線材の臨界電流を維持しながら遮蔽電流磁場を格段に低減することを目指す。これにより実用装置の磁場制御を可能とし、高い磁場均一性を実現可能な理論基礎を構築する。具体的な目標は、外部印加磁場1 Tで、臨界電流を100%維持しながら遮蔽電流磁場を50分の1に低減するポテンシャル実証である。
本研究では電気抵抗「ゼロ」で大電流を流せる希土類系高温超伝導REBa2Cu3O7( RE123、RE:希土類元素)の多芯線材を開発し、高電流電気機器並びに高磁場電磁石に省電力及び高効率化を図る。現在市販されているRE123線材は単芯テープ構造であり、外部磁場に対する遮蔽電流が大きいことから装置への不整磁場と交流損失が発生してしまう。線材を多芯構造にすることで、遮蔽電流磁場を大いに改善することができ、線材の臨界電流を維持することができるなら実用への期待が高い。
脱炭素社会の実現にむけて、水素サプライチェーンの構築は重要なキーテクノロジーの一つである。安心安全な水素の利活用のためには、低圧かつコンパクトに水素を配送する「ラストワンマイル水素」技術の確立が重要であり、水素吸蔵合金はその有力な候補技術である。現用合金は、水素吸放出時におよそ40%程度の膨脹・収縮が起こり。搭載する水素貯蔵タンクの高効率化のために、この体積変化を小さくする要求がある。
希土類元素(RE)は、多くが二水素化物REH2と三水素化物REH3を形成し、どちらの結晶構造も面心立方構造
(FCC)で変態した場合の体積変化は10数%と小さい。当グループは、元素添加や組織制御によって希土類水素化物がFCC構造に安定化することを見出した。そこでこの安定化機構の解明と、水素吸蔵合金としての評価を行うことを目的とする。
建物で消費されるエネルギーの約40%は、空調(冷暖房)に費やされている。窓は、冬の熱放散と夏の過度の昇温の主要な経路になるため、窓ガラスを介したエネルギー伝達の包括的な制御は、エネルギーの効率的利用の観点から主要な課題の1つである。居住者の快適性、健康および安全性を危険にさらすことなく、住宅および商業ビルの窓のエネルギー効率を高める技術の開発は、エネルギー消費量の多い北海道のみならず熱帯地域を含む世界規模で喫緊の課題である。透明度と反射率を必要に応じて調整できるスマートウィンドウ(以下SW)の利用は、簡便で効率的にこの課題を解決できる。
本研究では、温度による相変化挙動を発現する希土類有機ハイブリッド材料の素材となる分子の設計と合成方法の確立、およびサーモクロミックSWへの応用を目指し、任意の温度で相変化させる、下限臨界溶液温度(LCST)の発現およびそのメカニズムを明らかにすることを目的とする。
温度範囲を問わず、温度差さえあれば発電できる熱電発電は、太陽光発電・風力発電とともに、有力な再生可能エネルギーである。しかし、熱電発電を一般に普及させるためには、熱電変換材料のさらなる性能向上が不可欠である。本研究では、古典的分子動力学法および第一原理計算法による計算機シミュレーションを駆使し、熱電変換モジュールに応用可能な新物質探索を行い、次世代高効率熱電変換材料を開発することを目的とする。
具体的には、ラットリング効果が期待される希土類充填スクッテルダイト化合物のようなカゴ状物質に着目し、高性能な熱電変換材料の開発を目指す。カゴ状化合物においては、カゴに内包されたゲストイオンがカゴを形成するイオンと弱く結合することで、低励起の光学フォノンが生じ、調和フォノンによる熱の伝播を妨げ(ラットリング効果)、格子熱伝導率が著しく低減する。ラットリング効果の利用、,キャリア濃度の最適化とは独立に熱伝導率を低減できる方法であり、飛躍的な性能向上につながる可能性が高い。また、充填スクッテルダイト化合物は、蒸気圧の高い元素と高融点の遷移金属等を反応させる必要があるため、高温高圧合成法により試料合成を行う。
自動車廃ガラスの排出量は札幌近郊だけでも年間約200tにも及んでいる。しかしながら、自動車廃ガラスは土質成分に近く資源的価値に乏しくかつ無害であるため、その大部分は埋め立て処分されるのが現状である。現在、一部の廃ガラスがリサイクルされているが、ガラスウールや路盤材などカスケード的な利用にとどまっている。自動車産業が盛んな地域では自動車用ガラスへの再利用が検討されているが、北海道地域にはそのような産業基盤がなく、輸送コストの観点から北海道地域では困難と言わざるを得ない。
我々は、自動車廃ガラスの産出地である札幌、石狩に近い小樽地域の特産品がガラス工芸製品であることに着目した。ガラス工芸製品の原料に自動車廃ガラスを提供することは、より付加価値が高い製品へのアップサイクリングとなるため、経済合理性を有するリサイクルに発展する可能性がある。本研究では(1)廃ガラスに含まれるFeイオンの発色を制御することで、寒色から暖色系までの着色を目指す。(2)自動車廃ガラスに改質剤を添加することで熱機械物性を調整し、加工時のエネルギー効率の改善とともに吹き、切子、サンドブラストにおける加工性の改善を図る。また(3)新たな機能として自動車廃ガラスに含まれる希土類であるセリウム(Ce)を活かして、リサイクルガラス工芸品に抗菌性や光触媒特性などの機能の付与を目指す。最終的には、環境を考えた新しい工芸製品として育成していきたいと考えている。